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アートが散りばめられた空間。 マーケットスクエアの空間は、 こうして誕生した。

あ、あの…。

本当にすいませんでした!

え…!?(パニック)なんで謝るんですか?

実は僕、高津さんが動物の絵を得意とするアーティストさんだって知らなくて、壁に描いていただくアート案を見て動物の割合減らしてってずっとダメ出ししてましたよね。

えっ、確かにそういう指示はありましたけど、怒ってなんていませんよ(笑)。むしろアーティストとしていままでで一番大きな依頼がいただけて、「キター!」って思ってました!

えっ、そうなんですか?ずっとどうやってお詫びしようかと…。

今日は空間プロデュースをしてくださった株式会社スペースのお二人もいらっしゃっています。描いてくださったアートの秘話を聞かせてください。

そもそも、マーケットスクエアささしまのリニューアルが決まったのは、2017年の頭。この土地は2005年から15年間、名古屋市から借りていたものなんですが、借地期間が延び、営業を延長することになったのがきっかけでした。

我々東急不動産がオーナー、そして今日来てくださっているスペースさんが空間デザイン・設計、建築はまた別の会社さん。こういったショッピングセンターは、多くの会社の協力なしでは作ることができません。

コンセプトや空間デザインを考えるのが私たちスペースの役割でした。

スタート時の計画からはかなり変わりましたよね。言いにくいけど、予算の問題もあり…。

うっ(苦笑)。かなり無理を聞いてもらいましたね。ありがとうございます。

楽しいアイデアは無限に思いつきますけど、現実との兼ね合いは常につきまといます。「尾西さん、ちょっと話が…」って眞明さんに呼び出された日のことは鮮明に覚えています。呼び出された時点で嫌な予感はしてましたけど、予算が当初の3分の1になりました(笑)。

2019年5月ごろには予算が確定し、できること、できないことが明確になりました。それを、スペースさんにお伝えするときは、ちょっと心苦しいものがありましたね。

空間デザインは常に予算との戦いですし、今回はリニューアル自体が頓挫していた可能性だってありました。こうしてリニューアルできただけでも、嬉しく思ってますよ。

限られた予算でリニューアルすることになったので、切り詰めて、でもお客様に満足いただけるように…。といろいろ試行錯誤しましたね。床は見た目の印象が大きいから張り替えよう。トイレは以前のまま活かそう、とか。デザインを工夫すると、低コストでもガラッと施設が生まれ変わることを改めて学ばされました。そして、スペースさんのプロフェッショナルな仕事ぶりを見せていただきました。

今回コンセプトで大事なキーワードは、スポーツ、エンターテイメント、そしてアートです。壁に絵を描こうということになり、アーティスト探しも我々で行うことになりました。

東急不動産さんには、高津さんも含めて3名のアーティストさんを候補に出したんですよね。

そうだったんですね。なぜ私を選んでいただけたんですか?

愛知の芸術大学出身で、地元で活動されているというのは一つ大きいですね。エリア密着型の施設にしたかったので、エリアの人たちの感覚や思いがわかる高津さんとなら、共にいいものを作れると思いました。

私たちの本命も高津さんでした。目指すテイストに合っているなと思っていたんです。

理由はいくらでも語れますけれど、初見で直感的に決まっていた気がしますね。

それは嬉しいです!

本腰を入れてアーティストとして生きていこうと決意した矢先にお声がけいただけたので、人生が変わる予感がしてとても嬉しかったです。この仕事がなかったら自信が持てなかったかもしれません。

本当ですか…!?それ聞けて僕もめちゃくちゃ嬉しいです。

家族や親戚、友達もすっごく喜んでくれているんですよ。エントランスのマクドナルド前の柱のライブペイントを、中京テレビさんで取り上げていただいた際は、ツイッターやインスタの通知が鳴り止まなかったくらい。新しく私の絵を知ってくれた人も増えました。

ずっと失礼なことをしてしまったと思ってたんで、本当に安心しました。高津さんの絵は迫力があり、生で見る方がずっと素晴らしいですね。絵を描きあげるのに、どのくらいの期間がかかりましたか?

メインのシャッターは完成まで20日かけました。梅雨の時期だったので、雨だと作業がストップしちゃうしヒヤヒヤしました。

シャッターは、紙に描くのと全く違いました。まず大きいし、凸凹も計算しないといけない。

普段使わない筋肉を使うから、体力もいりましたね。足場に登って高いところを描いているときは結構怖かったです(笑)。

周囲の工事も同時進行でしたし、マーケットスクエアささしまの雰囲気がわからない中で、コンセプトに合った絵を描くのは大変だったんじゃないですか?

「動物を減らして…」以外にも、細かいリクエストを何度もしてしまいましたし…。

いえいえ。大学時代にグラフィックデザインを専攻していたこともあり、依頼してくださった方の要望や目指すものに合わせてブラッシュアップしていくのが当然だと思っているんです。やりとりを重ねることで、より良い作品ができるなら、どんどん話し合いをした方がいいですよね。

施設としての目指すべき形とアーティストさんの特性を活かすことは難しいことですが、振り返ってみて、共に創っていくことができたと思っています。

ありがとうございます。例えばこの柱、最初の案では、狼の絵を全面に出してましたよね。実際完成したものを見てみると、狼が目立ちすぎないほうがいいってわかります。指摘も納得だし、むしろありがたいです。

狼がシンボリックになりすぎるのも違うけど、なじみすぎてもおもしろくない。高津さんが意図を汲み取ってくれたおかげで今回のリニューアルにフィットする作品が出来上がったと思います。

実は、店舗の仮囲いのライブペイントは、お詫びの気持ちで追加依頼させていただいたんです。動物の絵を制約なしに描いてもらいたいなと思って。

そうなんですか(笑)。

ライブペイントは、また違うチャレンジでした。

コンセプトを体現するのも楽しいけれど、自由に描いていいと言っていただけるのは、アーティストとして何よりも嬉しいです。

予め、描く絵は決めているんですか?どうやって描くのか想像も付きません。

ある程度イメージは決めていますが、フィーリングを大事にしています。私の場合は、動物を一体ずつ完成させるのではなく、一色ずつ、色を増やして完成させていきます。

まずは黄色からスタート。何も意識せずに、想いのままに壁に色をペイントしていきます。

偶然できた線や形を、赤と水色でバランスを整え、最後に黒で輪郭を描いていきます。
色を足すごとに、少しずつ動物に命を入れていくんです。

かっこいい!描いてる瞬間を観たかったです。特にお気に入りの一体はありますか?

どれも思い入れがありますが、このガゼルですね。

最初にこの胴体の一筆が描けたことで決まったなって。筋肉の様子や息遣いがリアルに表現できたと思っています。

エピソードを聞くと躍動感が違って見えますね。空間デザインにアートを取り入れるときには、今回のように一からアーティストさんと作り上げる手法と、完成している作品を飾るという手法があります。

空間自体の価値をグッと高めるのは、やはり一から作り上げるやり方。高津さんのおかげで、マーケットスクエアささしまの空間が素晴らしいものになりました。

こちらこそ、このような機会をいただけてとても嬉しいです。ありがとうございました。

お話を聞いて、ずっと思い入れが深くなりました。何度も細部まで見てしまいますね。さらにたくさんのお客さまにも見ていただきたいです。高津さん、素晴らしい絵をありがとうございました。

(取材・文/井澤 梓)

PROFILE

高津 ゆい Yui TAKATSU

1992年生まれ 岐阜県多治見市出身
2018年 愛知県立芸術大学大学院デザイン領域修了
動物画を制作するアーティスト。
名古屋や東京をメインの活動場所として、絵画制作やイラストレーション、大型壁画や各種イベントでのライブペイントを請け負っています。
自然物を独自に解釈し、色鮮やかでファンタジックな世界観の描写を目指しています。

趣味は自然観察と読書、音楽鑑賞。
好きな動物は大型ネコ科と鳥類。

PROFILE

眞明 大介 Daisuke Shimmei

1982年生まれ、神戸市出身。東急不動産で商業施設のアセットマネジメントや渋谷駅桜丘口地区再開発、神宮前六丁目地区再開発の商業施設運営企画に携わり、グループ事業の東急ハンズでも事業開発に取り組んでいる。
商業施設賃貸業や小売業の新たな事業の形を模索している。